白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「母親同様に、婚約者を自分の身勝手で捨てた男が今さら偽善者ぶるか」

「わたくしは決して、捨てられてなどおりません!」

 嘲笑うスタンレー公爵にロゼリエッタは叫んでいた。ロゼリエッタからの反論をまるで想定してはいなかったのか、公爵が驚いたような目を向ける。


 もしかしたら、ある意味ではいちばん公爵に反撃をくわえられることなのかもしれない。

 そう思うと次の言葉も、それを口にする勇気も奥底から湧き上がって来るようだった。

「クロード様とわたくしは同じ道を共に歩めなくなってしまっただけ。いいえ。最初から道は分かたれていたのです」

「――ロゼ」

 背中を向けたまま、クロードが名を呼ぶ。

「君はもう、守ってくれなくてもいいと言った。でも、僕は――僕の世界に大きな光を与えてくれた小さな女の子を、君だけを守りたいんだ。その為なら、僕はどうなろうと何だって良かった」

 ずっと、自分は簡単に切り捨てられる存在なのだと思っていた。

 でも本当は違う。違っていると、思いたかった。

 そうして、嘘でもいいから大切だと、傍にいて欲しいと言って欲しくて、なのにいちばん大切な言葉だけを飲み込んでいた。最初から大きくすれ違っていたのだ。

「世間知らずな貴族子女が口先だけの言葉に騙されて、可哀想に」

 公爵は笑みを消さず、けれど感情のこもらない声で誰にともなく呟く。それはロゼリエッタに向けたものなのかもしれないし、あるいは過去の公爵自身に向けて言っているのかもしれなかった。

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