sugar spot
その瞬間、振り返って立ち止まった男は、中性的な綺麗な顔立ちで、私を簡単に見下ろす。
「…な、なに?」
「△社の件、どうなった?」
「え?」
急に脈略なく尋ねられて、私も足を止めて聞き返す。
「今日担当のところ行ってたんだろ。」
そういえば前に、この男にも少しだけその話したことを思い出した。覚えていたことに驚きながら、
「あ、とりあえずなんとか再開できそう。
心配かけてごめん。」
と素直に伝えると、何故だか眉を寄せられた。
「じゃあなんでそんな暗いんだよ。」
「…え。」
「暗いというか、いつもみたいにうるさく無い」と失礼な指摘をして、私にまた一歩近づいてくる。
「…いやそれは、待ち合わせもうまく出来ないことに落ち込んだだけ。今度からちゃんと地図を先に調べてから来るから。」
恐らく予定していた待ち合わせ時間を、大きくオーバーしている。自分が土地勘が全然無いって分かっていたんだから、ちゃんと事前に見るべきだった。
"浮かれていて"そんなこと完全に頭から抜け落ちたままに、ただ此処まで来てしまったとか、そういう理由も本当はあるけど告げる気は無い。
その拍子に男はまた険しい顔のままに「馬鹿」と言葉を漏らす。
「なんでよ。」
「別に良いだろ。」
「え?」
「俺とお前は仕事で会ってんのか。」
「…ち、違うけど。」
否定はきちんと伝えたら、ほんの少し目の前の男の表情が柔らかく見えた。
そのまま、夜風に吹かれて私の頬にかかっている髪をそっと避けながら
「別に、迷ったらいつでも迎えに行くけど。」
と、平静な声で言われた言葉でも、「気を張らなくて良い」と変換してしまえるのは、私のエゴだろうか。