sugar spot




その瞬間、振り返って立ち止まった男は、中性的な綺麗な顔立ちで、私を簡単に見下ろす。

「…な、なに?」

「△社の件、どうなった?」

「え?」

急に脈略なく尋ねられて、私も足を止めて聞き返す。


「今日担当のところ行ってたんだろ。」

そういえば前に、この男にも少しだけその話したことを思い出した。覚えていたことに驚きながら、

「あ、とりあえずなんとか再開できそう。
心配かけてごめん。」

と素直に伝えると、何故だか眉を寄せられた。


「じゃあなんでそんな暗いんだよ。」

「…え。」

「暗いというか、いつもみたいにうるさく無い」と失礼な指摘をして、私にまた一歩近づいてくる。


「…いやそれは、待ち合わせもうまく出来ないことに落ち込んだだけ。今度からちゃんと地図を先に調べてから来るから。」

恐らく予定していた待ち合わせ時間を、大きくオーバーしている。自分が土地勘が全然無いって分かっていたんだから、ちゃんと事前に見るべきだった。


"浮かれていて"そんなこと完全に頭から抜け落ちたままに、ただ此処まで来てしまったとか、そういう理由も本当はあるけど告げる気は無い。


その拍子に男はまた険しい顔のままに「馬鹿」と言葉を漏らす。

「なんでよ。」

「別に良いだろ。」

「え?」

「俺とお前は仕事で会ってんのか。」

「…ち、違うけど。」


否定はきちんと伝えたら、ほんの少し目の前の男の表情が柔らかく見えた。

そのまま、夜風に吹かれて私の頬にかかっている髪をそっと避けながら

「別に、迷ったらいつでも迎えに行くけど。」

と、平静な声で言われた言葉でも、「気を張らなくて良い」と変換してしまえるのは、私のエゴだろうか。
< 169 / 231 >

この作品をシェア

pagetop