sugar spot

◻︎

「おい。」

「……」

「待ち合わせに何分かかるんだよ馬鹿。」

「流石に、返す言葉ないです。」


そこから数十分後、何故だか私が迎えに来てもらっている構図が完成した。

北改札を目指したけど、上るエスカレーターが違ったのかなんなのか、その改札は一向に見当たらず、もうとりあえず改札を出てから東口を探そうとしたのが間違いだった。


外に出て地図アプリを開いてみると、どうやら東口からは程遠い場所に自分がいることに気付いて、焦りが募った。それでも分からないなりに必死に道を確かめていると、痺れを切らしたかのように男から電話がかかってきて「もう俺がそっち行く」と、告げられてしまった。


「とりあえず東口に戻るから。」

「あ、はい。」


前を歩く長身の男は、いつだって能面を携えていてその表情が崩れることは、あまり無い。

"あの日"、お互いの気持ちを告げあってから約1週間が経ったけれど、劇的に何かが変わったことも無い。




"明日金曜日だよ、デートするの!?"

"うん。多分、ライブハウス行くと思う。"

"ほお。その後は?"

"え。中華屋に行く…?"

"…それそのまましっかり食べ終えて解散しそうじゃない?ライブ参戦した高校生じゃないんだから?"

"ど、どういう意味。"

"どっちかの家にちゃんと行って、いい感じのムードつくってイチャイチャできるの?って意味。"

"しないけど!?"

"え?しないの?"

"しないでしょ…、まだ1週間だし。"

"え?しないの?"



凄く悪いタイミングで、昨日の奈憂との電話を思い出してしまった。

待ち合わせから前途多難な私とこの男の今日に、そんな展開が待っているとは思えない。

変に色々意識してしまったなと考えを断ち切ろうとしたら深く溜息が出た。
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