sugar spot
________________
______
社会人って、営業の仕事って、
どんなことをするんだろう。
そう期待に胸を弾ませていた筈の私は、
既に若干打ちのめされている。
「…途方もねえ…」
そう絶望を呟いて自分のデスクで眺めているのは、以前とある案件で使われたらしい、オフィスの図面。
今日はデザイン部・設計部の先輩からオリエンテーションを兼ねた座学研修があった。
勿論解説付きではあるけど、図面を用いて容赦無く語られる専門用語に、メモを必死に取っていた手が負けるかと思った。
「分からないとこ、ある?」
「あります!分からないとこしかありません!!」
デザイン部の方の説明を請け負ってくれた瀬尾さんは、私がほぼ半泣き状態でそう告げると一瞬きょとん、とした顔をして、それから楽しそうに笑った。
なんだかちょっと気怠そうな、だけど雰囲気のある大人な彼は、枡川先輩の同期だそうで。
「梨木さんの先輩も、よく専門用語に苦戦してたな。」
思い出して告げる優しい笑顔は、嗚呼、絶対にモテそうだなと思った。
しかし私はそんなどころでは無い。
瀬尾さんに質問をしつつ、
兎に角メモを必死に取っていると、
「有里君は、大丈夫?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
狭い会議室で隣に座っていた男が、さらりと告げた。
それだけでイラっと簡単にしてしまう私は、今朝の牛乳の量が足りて無かったのだろうか。
舌打ちしそうになった私は、気にしないでおこうと再びペンを走らせることに集中しようとした。
しかし。
「…あ。そろそろ会議室の予約時間、終わるな。
ごめん、俺この後また打ち合わせ入ってるから、同期2人で後は確認し合ってくれる?」
「「……え。」」
瀬尾さんの柔らかいトーンで告げられた言葉に、そう呟いて思わずガバリと顔を上げる。
隣の能面も同じ反応をしてきて、それに更に腹が立つ。
そんな私達の様子を見た瀬尾さんは笑って、「それでも分かんなかったら、いつでも聞いて」と慌ただしく去って行った。