拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
あれだけ一緒にいたのに、無理やり触られたことも、どこかに連れて行かれそうになったことも一度だってない。牧野くんはそんな人ではない、と信じたいが・・・今聞いたことは紛れもない事実だし、牧野くんの動揺ぶりを見れば、もう信じることはできない。

お店を出てすぐに

「ご馳走様でした。じゃあ、ここで」

そう言って背中を向けて小走りで駅に向かって行こうとしたが、すぐに肩を掴まれる。

「危ないから走るなって。全然食べてないで飲んだだろう。時間平気なら、どっかで少し休んでから帰れ」

「どっかって?」

さっき話してた『もうやったの?』が頭をよぎり、ホテルにでも連れ込むつもりか、と、強い口調で聞き返すと、優しい口調で言った。

「あそこでお茶しよう」

駅の手前にあるコーヒーショップを差して私の手首を掴んで歩き出すが、私は足に力を入れてその場から動かず、手を振りほどくと後ずさった。

「帰る」

後ずさりながら距離を取るが、牧野くんの動きが一瞬早く、また腕を掴まれる。
身体をよじりながら手を離そうとするが、ビクともしない。それどころかどんどん力が強くなり、腕が痛い。

「離してっ」

少し大きい声で言うが、腕をグイっと引かれて、怒ったように、送る、と言われる。

「いい。一人で帰る」

「ダメだ。立ててないだろう。送る」

「いい」

お願いだから一人になりたい。今、牧野くんと一緒にいたってまともに話せないどころか顔だってみたくない。

本気でやめてほしくて牧野くんの腕をバシバシ叩いていると、騒ぎを聞きつけた店長がお店から出てきた。

「どうしたのっ」

焦ったように言いながら、牧野くんの手を掴み、私との間に入ると、私に向かって、大丈夫?と声をかけてきた。

元はと言えば、この人が余計な事を言ってるのが聞こえたからだ、と思うと、悔しくて泣きそうだった。
いや、牧野くんの本心を知ることができて、むしろ感謝するべきかもしれない。

だけど、今すぐは心の整理がつかず、キっと彼を睨むと、駅に向かって走り出す。

しかしまた・・・10歩も行かないうちに、おいっ!と大きな声で呼ばれ、すぐに肩を掴まれた。

「いい加減にしろよ」

怒鳴るように言われ、悔しくて負けじと言い返す。

「こっちのセリフ。最低。触らないでっ」

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