拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
トイレの鏡を見ると、ホントに真っ赤だ。こんな顔をさらしていたと思うと恥ずかしすぎる。
少し醒ましてから戻りたいが、ちょっとやそっとじゃ収まりそうもない。
メイクを少し直したい程度じゃ代り映えしないが、しょうがない。

トイレをでて席に戻ろうとすると、席に牧野くんはおらず、もうお会計をしてくれているようだった。
入り口横のレジへ向かって行くと、牧野くんと友達だという店長の話声が聞こえてきた。

「あの子でしょ?呼べばすぐ来るって子」

「・・・・・」

牧野くんは背中を向けていて何を言っているのか聞き取れないが、何かごにょごにょと言っているようだ。

「もうやったの?今日もこのあと・・・」

そこまで言いかけた店長が、私に気づき、はっとした様子で言葉を止める。

それを見た牧野くんが、私の方を振り向き、少し目を泳がせたが、すぐに、おうっ、と声をかけてくる。

「大丈夫か?」

「うん」

私が店長に向かって、「ご馳走様でした」

というと、気まずい様子で、

「い、いえ。また是非お越しください」

そう言ってニコっと笑った。

『呼べばすぐくる子』『やったの?』

その会話で、牧野くんが私のことをどう話していたかなんて容易に想像できる。
先週会ったとき、めずらしく口説くようなことを言ってきた。ホテルに誘いたかったのだろうか。

・・・だけど、今までだって何度もチャンスはあったはずだ。だけど、あんな風にすり寄ってきたのは先週が初めてだった。

すべて計算ずくか・・・
牧野くんは幸い会社を辞めているし、「元同期」というだけで、何かあっても気まずくなるような関係ではない。
確かに、あれだけ急な電話でもすぐに応じてホイホイ会いに来るのだから、自分に気があると思っただろう。

牧野くんがサッカーを始めてずいぶん経つ。グループ会社所属のままとはいえ、ほとんど別会社だ。同期というつながりもはっきり言って薄い。
自分に気があり、後腐れなく、手ごろな相手だというわけか。
私なんてチョロくて、簡単だ、と思われたのか、と思うと、悔しさと寂しさと虚しさと・・・色々な感情が込み上げてくる。

『大丈夫か?』と聞いてくる牧野くんの目は相変わらず優し気だ。
私を気遣う様子が伺える。

この優しい目は出会ったときのままだった。
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