拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
近づく距離
金曜日、和美と一緒に飲むことになり、一緒に田中さんのバーに行く。
「グレープフルーツジュースお願い」
和美がめずらしくソフトドリンクを頼む。
「めずらしいね」
「実はね、赤ちゃんができたの」
「赤ちゃん!?・・・・が、いるの?お腹に?」
「そうだよ。もうすぐ三か月」
「・・・・すごい!和美が赤ちゃん・・・。おめでとう~!!」
和美がお母さんになるなんて・・・。
まだ学生気分が抜けないまま過ごした新入社員の頃を思い出す。ついこの前のことのように感じるが、もう入社して4年近くがたつのだ。
和美が結婚して約半年、そうなってもおかしくない。
ありがとう、と言いながらドリンクを飲む和美の横顔は、言われてみれば少し顔色が悪い。
「体調大丈夫?」
「先週から急に食欲なくなって・・・。常に吐き気がする」
大変だ・・・。仕事は体調に気を付けながら続けるつもりらしいが、少し辛そうだ。
「上司には報告したんだけど、職場の皆にはまだ言ってなくて。来週言うつもり」
そうなれば、同じ職場のたちも知ることになり、和美をサポートしてくれるだろう。
最近は家事をする元気もないらしく、旦那様の飯島君は外で食事を済ませてきてくれるらしい。
今日もこの後待ち合わせしていて一緒に帰る約束をしているようだ。
「和美ちゃん、よかったね」
田中さんもにっこり笑いながら、和美に声をかけている。
和美も、もうここにも来られないのかな~、と言いながら、田中さんと雑談をしいる。
妊娠中もそうだが、赤ちゃんが生まれたらしばらくお酒を飲みに来ることはなくなるだろう。仕事に復帰するのも先だが、子育て中心の生活になるし、今の生活とはガラリと変わるはずだ。
和美が遠いところに行ってしまうようで、少し寂しい気持ちになってしまいながら、和美のお腹をさすりながらしんみりしてしまう。
私も和美と一緒に帰ろうと思い、飯島君から連絡が来るまで、ゆっくり飲みながら待っていると、カランと音がしてドアが開き、何気なく顔を向けると、須藤さんだった。一人だ。
私たちの姿を見ると、少し驚いた顔をしたが、すぐに、こんばんは、と言いながら近づいてきた。
「こんばんは。私はもう出るので、ここどうぞ」
和美が立ちあがり、一つ左にずれて、私と和美の間に須藤さんを座らせる。
須藤さんも、じゃあ、遠慮なく、と言いながら腰をかける。
田中さんがいらっしゃいませ、と須藤さんに声をかけると、ジンベースで、何か作ってほしい、と話しながら飲み物を決めていると、すぐに、和美がスマホをみて、あ、来た、と言いながら席を立った。
「満里子、お先にね」
「うん。またね」
「須藤さん、お先に失礼します」
「うん。気を付けて」