40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「それは、何に対して?」

頭上から、樹さんの声が刺さる。
明らかに、怒っていると分かる声。
私の、この場所に至るまでの記憶の最後は、車内で樹さんにシートを倒されたところまで。
その直前の状況を思い出せば、容易に分かる。
私は顔を上げられないまま

「樹さんの車に……その……汚物を……」

と、しどろもどろに言うしかなかった。

(弁償……いくらくらいだろう……)

脳内で、お金の計算を始めようとしたところで

「何言ってるの?」
「え?」

慌てて顔を上げると、樹さんの表情は明らかに戸惑っていた。

「ち、違うのでしょう……か?」

恐る恐る尋ねると、樹さんは数秒程固まった。
それから、長いため息をついた。

(どう腹式呼吸をすれば、そんなに息が吐けるのだろうか……)

などと、間抜けなことを考えている間に、樹さんは息を吐き切っていた。
かと思うと、すっと私の手を掴むと

「ちょっと、こっち来て」

と樹さんに引っ張りあげられた。
そうして連れてこられた場所に、私は別の意味でめまいがした。
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