40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
私は急いで、周囲を見渡した。
樹さんがここに来たら、洒落にならない。
佐野さんは、樹さんを狙っていたから。
しかし、佐野さんは私の行動には気にも留めずに

「こんなところで一体何をしてるの?」

と聞いてきた。

「旅行ですけど」

とだけ、私は答えた。
誰と、とは言わない。

「そうなの」

佐野さんも聞かない。
佐野さんにとって、私が誰といようがどうでも良いだろうから。
むしろ

「私、ダーリンと一緒にフランスでバカンスに行くのよ」

と自慢をする方が、佐野さんにとってはずっと価値があることだ。
私は、心の耳だけ閉じながら

「そうですか、お元気そうで良かったです」

とにこやかに社交辞令で返した。
佐野さんは、私がさほど悔しがらないので面白くないと思ったのだろう

「森山さんも、食べ歩きでお腹壊さないと良いわね」

などと捨て台詞のように的外れな事を言ってから

「行きましょ」

と去っていった。

「ふう……」

私は無意識に溜め込んでいた息を、思いっきり吐き出しながら

(何でこんなところで会うかなぁ……樹さん見つからなきゃいいけど)

と考えていると、コツコツコツと、ハイヒールの音をいやらしく鳴らしながら佐野さんが戻ってきた。

「な、何か用ですか……?」

私が尋ねると、佐野さんは

「あなたに1つ、感謝しなきゃいけないことがあるのを忘れていたわ」

と、前置きをしてから、私の脳みそに特大爆弾を打ち込んでくれた。
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