40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
(ううっ……何でこんなことに……)

あの、地獄の婚活事件から、数週間後。
9月1週目の日曜日。
私は浴衣姿で、駅の改札口である人を待っている。
紺色の生地に、白い花が描かれている大人っぽいデザインの浴衣は、少し痩せていた時期に気合をいれて買ったもの。
まだその頃の私であれば、鏡で見ても、そこそこの自己肯定感は保つことができていたかも……しれない。
だけど、今は違う。

「やだ〜似合わない癖に浴衣なんて着ちゃって……」
「え〜浴衣が可哀想〜」

などと、周りを通り過ぎる人々が、私に向けて言っているような気がした。
今すぐ、どこかに隠れたい気分になり、それに合わせて汗もどんどん湧き出てきた。

「……帰りたいな……」

臭いって言われたら嫌だ。
浴衣が似合わないって言われたらどうしよう。

そんな不安に押しつぶされそうになった。
その時、待ち合わせ相手から着信が入ってしまった。
私は、はぁ……とため息をついて、呼吸を整えてから、応答した。

『森山さん?氷室です』
「はい」
『今、どちらにいますか?』

(やっぱり……無理っ……!)

「あのぉ……氷室さん……実は私……まだ家にいて」
『え?』
「急にですね、お腹を壊してしまいまして……それで、今日行けそうになくて……」

(言ってしまった……!これでもう、お誘いが来なくなるかもしれないけど、でも嫌われるよりずっとまし……!)

「たぶん、風邪を引いてしまったと思うので……今日はごめんなさい、またの機会に誘ってください」
『おかしいですね』
「え」
『俺の目が正しければ、森山さん、今駅の改札前にいますよね?』
「……ええ……と?」
『今、何かを考えるために頭を動かしましたね』
「あ、あの?」
『それに、風邪だと言うなら、なおさら俺に森山さん』

真後ろから、肩を叩かれた。

(ま、まさか……)

振り返ると……。

「会ったほうがいいと思いませんか?」

紺色の浴衣をびしっと着こなした、待ち合わせ相手の氷室さんが、イケメンオーラを放出立っていた。
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