40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
(と……特別な……日……とは?)

「俺は、ギリギリ最終日なら大丈夫そうです」

その日は、9月1週目の日曜日だった。

(ギリギリ?最終日?一体何を言っていらっしゃるんですか??)

私は、話についていけず、ただ呆然としていた。

「あ、森山さんの方が、まずかったですか」
「いえいえ!私は土日暇なので……」

つい、反射的に答えてしまった。

(って!……そうではなくて!!)

私は、氷室さんに、意図を聞こうとするが

「特別な日にするなら、こういうイベントの方が良いかと、思いまして」

と矢継ぎ早に、言葉を重ねられてしまった。

「1つ、よろしいでしょうか?」
「何ですか?」
「氷室さんは……本当に、風鈴祭りに行きたいんですか?」
「森山さんは、行きたくないんですか?」
「え?」
「とても綺麗な写真が撮れると思いますが」
「はい、撮りたいです」

風鈴は、とても見たい。
SNS映えする写真も撮れそうだ。

「それなら、決まりですね」

(氷室さんは、お祭りの意味、分かっているのだろうか……?)

男女で行くのは、おそらくカップルであるケースがほとんどだろう。
男女の友達同士で行くケースも、あるのかもしれないが……?

(ああ、そうか)

お互い励まし合いながら良いご縁が来るように祈り合う、友達枠としての誘いなのだろう。
それなら、納得だ。

「森山さんは、浴衣持ってますか?」
「……たぶん……?」

(かつて若い頃に買ったような……)

「俺は持ってなかったんですが……1着くらい持っておいても良さそうですね」
「ひ、氷室さん?」

(話がどんどん進んでいく……!?)

確かに……浴衣を着て小江戸と呼ばれる川越を歩くことに、少し憧れはある……けれども!?

「せっかく特別な日にするのであれば、特別な服……というのも悪くないですからね」
「氷室さん!その前に!」
「はい?」
「その……特別な日ってどういう……」

と私が聞こうとした時、

「失礼」

氷室さんのスマホに着信が入ったらしく、真剣な表情で確認していた。
私は、ほとんど冷め切った紅茶を飲みながら、氷室さんを待った。

「申し訳ありません、森山さん」
「え?」
「……仕事で、トラブルがあったみたいでして……」
「大変、それなら早く行かないと」
「すみません、このお詫びはまた……」

氷室さんは、今日も伝票をさっと取ると

「森山さんも、ぜひ浴衣で一緒に行きましょう。あとでメッセージで待ち合わせ場所決めましょう」

と言うと、早足で去っていってしまった。
いつもなら

(足長いな……コンパスが違うとただ歩くだけでも、めっちゃかっこいいんだな……うらやましい……)

などと考えるところだったが……今の私にそんなことを考えるゆとりは、残念ながら全くなかった。

(何それ、何それ何それ。特別な日って……どう言うこと?)

すでに脳は、キャパオーバーの一歩手前。
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