地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
「って事でよ。
佳乃。
俺の大事な城だからな。 
何より信頼できる、お前に託すことにした」



「え?! いや、ちょっと待って。
そもそもそんなに決意と信念と思い出深いこの店を、なんで離れるわけ?!」


ーーー危ない危ない、危うくクルリと丸め込まれるところだった。



「そこだよっ!!」


バンっ!! と突然カウンター越しに前のめりでテーブルを叩いた。


近いし声が大きいし突然だし、圧迫感と暑苦しさが凄い。


なんだろう。
熊っぽい。


さっきまでの穏やかな空気は幻だったのか。


「勿論この店は宝だし、珈琲は好きだ!
だがな、佳乃。
俺がスマトラ行って珈琲屋やりたいと思ったのは、珈琲その物の魅力もあるが、コーヒー豆買い叩かれてる現地の農家だとか、コーヒー産業に頼って畑始めたが殆ど収入の無い貧困層だとか、そこの子供たちだとかよ、
そういう人たちの助けに少しでもなりたいと思ったってのも大きいんだ。」


「え、そうなの?」


目の前で厳しい生活をしている人々を世界中でリアルにたくさん見てきただろう。



佳乃もこの様な世界の情勢は気にはしても、実際に自分で立ち上がり、現実を少しでも改善するために何か行動を起こした事はない。



今彼女の目の前にいるこの幼少時代からの警戒対象は、実は世界を変えていく小さな一歩を踏み出せる、数少ない人間の一人なのではないだろうか。


「実はちょっと前に、スマトラで世話になった家の子供からメールが来たんだ。

携帯もパソコンも持ってないだろうから、連絡来るなんて思ってなかったけど、誰かに代わりに打ってもらったんだろうな。

そこにはこう書いてあったよ」



佳乃の目の前のカウンターに肘をついて、
創太郎が遠い目をして斜め明後日の方向を見つめる。


「な…なんて?」


ゴクリと唾を飲み込んで、
ドキドキしながらその内容が明かされるのを待つ。
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