地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
昼前には、昨日の宣言通り、
"金曜日の常連"のたけさんが来てくれた。

「お、ちょっとちょっとなによ〜、たけさんがホントに金曜以外に来るなんてな〜」
 

「だってめちゃくちゃかわいいんだも〜ん! おじさん応援しちゃう。」


小さいオジサンのたけさんは、頭頂部までオデコと化してしまった頭をコテンと傾げて、カウンターに座る創太郎の横に腰を下ろした。


「たけさん、ありがとうございます。
ちょうど心が少し折れかけてたんですけど、たけさんが来てくれて持ち直せそうです! 」


タレ目がちの佳乃の笑顔はそれなりの破壊力があって、高校時代から親友の優希には、

『危険だから知らない人の前で笑うな。』
などと言われていた。


「かぁ〜わいぃ〜〜!」

「けっ!目が垂れてるだけだろうが。
騙されるな、たけさん。
こいつはこう見えてケチケチこまごまうるさい妖怪小うるさ〜いなんだ。」


「そんなしっかりしてる所も、可愛いよねぇ〜」


たけさんにはもう佳乃が何を言っても"かわいい"で済まされそうだ。



佳乃はそんなふうに言われるのはかなり恥ずかしいのだが、恥ずかしがった所でそれもまた創太郎にからかわれそうなので、何とか流す努力をしてみた。


「ほら、そうちゃん! 
座ってないで中に入って珈琲の準備して!」

「へいへい」



創太郎は億劫そうに"よっこらせ"と立ち上がり、のろのろとカウンターへ入った。


創太郎はそんなだらけた態度に反し、珈琲を淹れる時と、ペペロンチーノを作る時はなぜか無駄のない動きを見せる。


今日もお腹を空かせたたけさんはランチを注文した。


今日の"冷蔵庫にあるもの"メニューは、
《たらこスパゲティ》


いつの間にタラコなんて買ってきたのか、まだまだ創太郎の行動範囲は謎がいっぱいだ。


やはりタラコスパゲティも手早くて、なおかつ凄く美味しそうだ。


「そういえば、創太郎くんはもうすぐインドネシアでしょ? 大変だねぇ佳乃ちゃん。
こんな自由奔放な叔父に振り回されちゃってさぁ〜!」



そう言って、たけさんは大げさに顔をしかめて見せる。

今すぐ井戸端会議のおばちゃんの輪に混ざれそうだ。



「そうなんですよ〜! 
これからしばらく一人になるので、実は今凄く焦ってます」


「心配しないで、佳乃ちゃん!僕がな〜〜んでも相談乗るからね!」


「言っただろ?
みーんな協力してくれるって。
俺が今手を離しても、お前の下にはふっかふかの真綿を抱えた人達がたくさん待ち構えてるぞ!」



創太郎にそんな事を言われたので、佳乃の脳内劇場には、真っ白なフワフワの真綿を掲げている小さいたけさんやゴローさんが、ニコニコと私を見上げていた。



ーーーなんだろう…嬉しいけど… 微妙。



兎にも角にも有り難い気持ちはいっぱいだった。

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