地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達

「そんなてきとうな事言って… 
業者さんとか、フードのレシピとか仕入れとか、豆の事だってまだわからないし! 
呑気なこと言ってられないよ。超特急で覚えなきゃいけないんだから」



「うちの業者って言ってもなー、決まってんのは商店街の豆屋だけだし、フードだってその日の気分だしー。
コーヒー豆の事は豆屋のコージさんがプロだからなんでも知ってるよ。
週に一回配達してくれるからお前がやる事は特に無いな」



色々テキトー過ぎて、やる事をしっかり指示されるよりずっと難易度が高い気がする。



「佳乃は佳乃がやりたい様にやればいいさ。
最初はフードまで手が回らないなら出さなきゃいいし、珈琲一杯とお前の笑顔とヤングパワーでなんとでもなるよ!ハハハ」



昔から解っていた筈なのに、あまりのてきとうさと無責任さに怒りを通り越して呆れるが、
ここで諦めたら以前の自分と同じだ!と気合を入れた。



なんせ今年の新たな目標は、学習機能向上なのだ!


「もう今回は流されないんだからね!
お母さんとそうちゃんにはいっつもそうやって流されてきたけど、もう私は昔のチョロいお人好しの佳乃ちゃんじゃないんだからね!

ちゃんと豆屋さんにも紹介してもらうし! レシピももらうし!
ここの店舗の契約の事とか、いろ〜〜〜んな細かい大事な事!ぜーんぶ洗いざらい教えてもらうからね!!」



両手に箒とちりとりを持って憤慨した所で、創太郎にどこまで響いたかは疑わしいが、とりあえず声高らかに宣言した事で、佳乃の溜飲は少しだけ下がったのだった。



とりあえず創太郎に誤魔化されない内に、豆屋の連絡先や仕入れ値、支払いの仕方など、その他思いつく限りの必要事項を聞き出し、全てメモっていった。
 


店舗の契約書などは家に帰らないとわからないとしつこいので、月曜日に絶対絶対!持ってくる約束を取り付けた。



創太郎のペペロンチーノのレシピを尋ねたが、
"目分量"とか、"なんとなく" ばかりで全く参考にならない。



他のメニューに関しても尋ねてみたが、ピタヤボウルを作ってみたけど誰も注文しないとか、カレーをスパイスから作ってみたいとか、聞きたい内容と全く噛み合わないので、時間の無駄だと思い諦めた。



「あとは、 一番大事な事よ、そうちゃん。
さぁ! 出してちょうだい!帳簿はどこ?」



ドーーンと効果音が出そうな勢いで、右手をバンっと創太郎の前に出した。



「帳簿?! あるわけないだろう、そんなもんは。」

「は?! お店経営してるのに帳簿がないわけ無いでしょ? 」

「お前、ボーッとした顔して細かい奴だなぁ〜!」



佳乃は心底信じられないという表情で創太郎を見た。



「え…じゃあ金銭管理はどうしてるの… 
まさか税理士に経理を頼んでるとは思えないし…」

「何言ってんのよ、そんなの伝票見てまとめてチョチョイでしょうよ」


ーーー がーーーん!…

し…信じられない、この人…
何ていう丼経営なの…!
これから私にここの経営をどうやってやれというのか…!



「そうちゃん…  いい… もういい…
お店の運営金だけ残してって…。私が経理もやるから…」


もう初めから自分でやった方が100倍話が速いのではないかと、今回ばかりは諦めた。


言っておくがこれは流されたのではない。


学習機能向上月間にのっとって、危険と無駄な時間を切り捨てたのである、と強く言いたい。


「そうか? ま、頑張るほど客も来ねえから、心配すんな!」


来なかったら来なかったで経営的に問題なのだが。

もう何もつっこまない事にする。
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