地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
カレーを温めながら冷えた麦茶を海星の前に置く。

手早く野菜の準備をして、ものの5分ほどで海星の目の前に熱々のキーマカレーが登場した。

「   …うま  」

海星から"ウマイ"の一言をもらい、安心した所で佳乃は話し始めた。

「食べながらでいいから聞いて欲しいんだけど 」

スプーンでカレーを掬いながら視線だけ寄越して見せる。 
 
話せと言う事だろう。

「今日ね、またマスモトさんが来たの。
例の海星くんの隣の学校の子のお母さんね。」

もぐもぐと咀嚼しながらも一応話は聞いてくれているようで、何も言わずに先を促してくる。

「メールに写真が送られてきたみたいで、コピーしてそれを持って来たんだけど… これ。」

先程マスモトさんがそのまま店に置いていった例の写真をカレー皿の向こうに並べて行った。

海星がスプーンをカレーに立てたままそれを覗き込む。

眉間に盛大にシワを寄せながらも、一枚一枚確認はしてくれている。

一通り見て首を傾げる。

「  …なんか、おかしくね?これ… 」

「やっぱり?! マスモトさんが来た時ね、うちの常連さんも店に居て、この写真を見てそう言ったの。 
首の上と下がおかしいって…。」

海星がゴローと同じ反応をした事に少し興奮して自然と前のめりになる。

「 おかしいし…  …何かこの場所…   」

写真を見たまま首を傾げるが、今いちその先がはっきりしない。

「その常連さんの知り合いに、コンピュータの専門家がいるみたいで、解析を頼んでくれるみたい。」

「 …へぇ。  」

まだ何か腑に落ちない事があるような顔でスプーンですくったカレーをまた一つ、口に入れた。

佳乃がカウンター越しに向かい合いながら、ふと、その伏目がちの目元がなんとなく目に入った。

ーーー まつ毛長…

「 …ま、  どんな顔かももう忘れたけどな」

映画のワンシーンを切り取った様な海星の顔をぼーっと眺めていたが、その一言で思い出した。

「あ、そうそう、 マスモトさんがゴローさんに、私達に最初に見せてくれた写真も送ってたの。
それを更に私にも転送してきてくれたんだけど…

ほら…、 この写真ね?」

自分のスマホにゴローさんがなぜか転送してくれた、レオタードのエレナちゃんとお友達の写真画像を見せた。

海星はどうでも良さそうに体を起こして、スマホの写真を見た。

「   あ…  」
「 え?」

「  あ〜…  …こいつか。」

「 えっ? なにが?」

一人納得し始める海星に、不可解そうな佳乃。


「俺コイツ見たわ。   


    …ここで  」

そう言って、エレナの横で笑うホクロが特徴の友達の女の子を指差し、その指をすっとマスモトさんがコピーした、
あの薄暗い首挿げ替え疑惑写真に移動させた。

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