地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
「あの最初に一緒に来た先生に、お話を聞いてみたりしましたか?学校での様子とか。」


「聞きましたよっ! 
でもあの人モゴモゴして何が言いたいのかよく分からないし! 

会議やらなんやらって、ろくに話もきいてくれないんですよ!?

自分から言い出した癖に無責任だと思いません?!」


打ちひしがれていたと思ったら、急に怒り出したマスモトさんが、カウンターをバンっと一つ叩きながら憤慨している。


どうしたものか… と思った所で、
そう言えば注文も聞いていなかった事を思い出た。


「あの… とりあえずお飲み物でも何か出しましょうか?」


マスモトさんも、あぁそうだったと言う顔で興奮を少し収めた。


「あぁ、そうですね、 じゃあいつもどおりブレンドで…。」


このマスモトさんも、
"いつも通り" と言えるくらい常連さん化している事に気づいて佳乃は少し苦笑いをした。



ブレンドコーヒーを飲みながら、

"ゴローさんは来ないのか" とか、
"解析について連絡が来ていないか" とか、

佳乃の顔が引きつりそうな事を色々聞かれたが、今回は何も言わず黙っている事にした。


黙っていると言う事にかなりの精神力を要したが、さすがに気軽に言える内容ではない。



ひとしきりマスモト母娘の今までの努力と歴史を語って、コーヒーを飲み終えると、
"夕飯の支度がある" と言って帰って行った。



「 っ疲れた〜〜〜!!」



ドアが閉まって5秒我慢してから、カウンターに突っ伏した。


重要事項を黙っていると言う重責が重すぎて、
暫く起き上がれそうも無い。


椅子とカウンターの高さのバランスが良いな、とか、木の手触りがいいとか関係無いことを考える余裕が少しできた頃、またドアベルが来客を知らせる。



「 いらっしゃ…い… ま…?   
  まっ…!  っまーーっっ!!」



何という日だ。



胸まで伸ばした癖のない黒髪。

スラリとしているがしっかり筋肉のついていそうなしなやかなスタイル。


まだ幼さは残るものの、目尻がきゅっと上がった、一見きつそうな美人顔。

肩には、小さなトウシューズのイラストのスポーツバッグが下げられている。


紛れもなく、ここ最近何度も写真見て見慣れた、


『マスモト エレナ』


その本人だった。
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