地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
とりあえず、"何も要らない"と言われたものの、
自分用に作って常備してある麦茶をエレナの前に置いた。


何か言うとまた言い返されそうなので黙っておく。


グラスが汗をかいていく様子を見つめて、
小さく口を開いた。



「今考えてみても、いつから始まってたのかわからないくらい…

気づいたらどんどんまわりと距離が出来てて。

トレーニング忙しかったから、元々そんなに交流はないけど…

部活でも、明らかに避けられてる…

先生だって…っ  」


そこまで話すと、スッとまた視線を足元へ下げた。


"先生" と聞いて、ふとあのマスモトさんと最初に来た髪の短い、新体操部の顧問を思い出した。


「 先生まで? 」


佳乃が反応した事に一瞬顔を上げたが、またすぐに元の場所へ視線を落とす。


「 …先生は… 」


その先が気になるのに、エレナはそこから止まってしまって動かない。


ーーー先生ってきっとあの先生だよね…
それにしても…っ!


「先生の態度もおかしいんだとしたら、その先生酷いよっ! 生徒が困ってる時にちゃんと導いてあげないで、自分も子供と同じような事するなんて…」


「先生のこと悪く言わないで…っ 」

「え?」


二人の間に一瞬微妙な空気が流れた。


「…いや…っ、すごく…  お世話になったので…」


「 …そうなんだ…  
他に、相談乗ってくれそうな先生とか、友達はいないの?」


「他に…  は…  いないと思う…。」


少し視線を彷徨わせながら逡巡したが、思いつかない様だ。


「友達も… 今はいないと思う… 」


その"友達" の中に、あのホクロの女の子はいないのだろうか。


「でも、少なくとも、お母さんは100%あなたの味方なんじゃない?」


あんなにエレナを心配して取り乱していたマスモトさんだ。

一番の味方であることは間違いない。


「お母さんなんてっ!

お母さんは…、私を通して自分の夢を見てるだけだよっ!
あの人が見てるのは私じゃない。
その先のオリンピックだけ!」

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