地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
エレナが発する言葉は、まだ高校生とは思えないほど何か説得力があり、おまけに悲壮感さえ感じる。

そういう物に滅法弱いと自覚している佳乃は、心の中でひとつ踏ん張りを効かせて、感情に流されない様に小さく気合を入れた。


「あのね。 お母さんがあなた越しに夢を追ってると言うけど、あなたもオリンピックを目指してるんじゃないの?
だとしたら、同じ夢を追える最高のパートナーじゃない?」


佳乃なりにまともな事を言ったつもりだが、とたんにエレナの目に、キッと力が入った。


「もちろん私も目指してますよ、オリンピック。
でも、家族ってそれだけですか?!
体操以外にも私の生活はあります。
それはまるで無視されてきました。
興味無いんですよ、私の体操以外には。
今回だって何があったのか知らないけど、
きっと体操に何か関係してるんでしょ?!
じゃなきゃお母さんが学校まで覗きに来たりしないもの!」


ーーーぐぬぬ…


正論すぎてぐうの音も出ないとはこの事である。


佳乃が冷えた手をおでこに当てて、どうしたものかと考えあぐねていると、エレナのかばんの中から電子音が聞こえてきた。


「 … 」

カバンからスマホを出してその音を止める。

アラームのようだ。


「  …もう行かなきゃ…
ここに来たことは言いません。
でも私はこのまま諦めません。
いい加減…はっきりさせたい…

    …おじゃましました。」


そう言うと、さっと荷物を肩に背負って椅子から降りた。

最後まで麦茶には手をつけなかった。
< 80 / 97 >

この作品をシェア

pagetop