噛み痕にキス
吹いたら飛びそうなその紙が、滑稽だった。
あたしは井花が見られなかった。
「ごめんね、こんなことさせて」
「伊丹」
「明日、また会社で」
泣きそうだったから、笑ってみた。
こんな感情になるのは初めてで、よく分からない。
虚しいのか、悔しいのか。
切ないのか、嬉しかったのか。
何か言われるより先に、あたしは寝室を出て井花の家を出た。
エレベーターの前まで来て、ボタンを押す。
溢れる涙を堪えることができず、静かに嗚咽を漏らした。
静かにエレベーターがやってきて、乗り込もうとする。