愛してしまったので離婚してください
何となく雅の表情で彼が何かを考えていると察するようになったころ、雅が明らかに顔に不快を出した瞬間があった。
それは、私が作ったトマトたっぷりのサラダに手を付けた時。

「もしかしてトマト、だめでした?」
その言葉に雅は口の中に入っていたトマトをほとんどかまずに大げさにのどを鳴らして飲み込んでから小さく頷いた。

意外すぎてちょっとかわいらしくて、思わず笑った私に雅は耳を赤くしたのを覚えている。

あの日のことを思い出して、トマトを洗いながら笑ってしまう。

結婚してからも私たちはあまり顔を合わさなかった。
一緒に食事をしたことだって数えるほどだ。

なのに・・・こうしているとふと思い出すことがある。
雅との思い出。

5年は決して長くはなかった。
でも、この5年、私は雅を愛して、愛する人とのほんのひと時の幸せな瞬間を自分で思っていた以上に過ごしていたのだろう。
< 67 / 251 >

この作品をシェア

pagetop