2章・めざせ転移門~異世界令嬢は神隠しに会う。

未来での発覚事項

『マーシャお嬢様お帰りなさい
ませ。只今、従兄弟様が、
いらっしゃっております。』

海を統べるギルドを一旦出た
マーシャが、急ぎ
魔法で屋敷に戻ると、
来客を知らせながら
家令が
マーシャを出迎えた。

「ただいま!お父さまに話が
あるのだけど。大丈夫かしら」

「来客は、フーリオ様だけで
ございますので大丈夫かと。」

「なら、直ぐに客室に行くわ。」

マーシャの言葉に
家令は、
客室へと先づけに行った。

「まずは、ラジ長からの報告を
してから、お母さまに聞いて」

重要事項をギルドの長ラジから
父への言付けとして
マーシャは預かっている。

屋敷のエントランステラスから、
白く光る
眼下の城下景色を、
マーシャは眺めた。

旧ウーリュウ藩島は、
神山マウントブコクの頂きを
中心に、
標高を高くした自然島だ。
その傾斜面を生かし
城下建築される。

南気候の土地ならではの、
白石で造られた
スカイゲート城をはじめ、
城下街となる回遊階段形式で、
街並が森林を織り交ぜ
広がっている。

そして
裾野は、真っ白い砂浜の沿岸部と
南国木が連なり、
集落や港、巡礼道が
島の周囲取り囲む。


「お嬢様、旦那様が了解され
ましたので、客室にと。」

家令が戻り、マーシャに伝えた。

青い海に浮かぶ白亜の姿が
絵になる美しい島。

(このスカイゲートで再び危機が
起きようとしているなんて。)

スカイゲート城の真近くにある、
上流貴族の居住段に、
マーシャの住むスイラン邸は
あり、
子供の頃から城は、
マーシャにとっては
もう1つの家という程身近で。

(もう、ルゥもいないのに。)

幼子からの婚約は、
マーシャを常に次期藩島主の
妃としての気概を育ませた。

例え、すげなく婚約が解消されて
しまった今でも、意識は
島全土を想ってしまう。

(ルゥは、、わたしも、、島も
きっと意識しなくなるよね。)

マーシャは、
心に僅かな痛みを覚えながらも、
勢い良く扉を開いた。

「お父さま!お母さま!
戻りました。失礼いたします。」

こんな風に一見、
マーシャの姿が
淑女らしくなかったとしても。

「マーシャ。無事に戻ったか。」
「お帰りなさいね。」

マーシャを咎めるでもなく
魔導師である父母は労ってくれる。

「お!マーシャ。見送りだった
んだろ?えらく遅い帰りだね。」

そして、
マーシャが纏う黒のローブとは
真反対の白いローブ姿が、
白く明るい客室の中、
ニコやかにマーシャへと
振り返える。

漆紺色の髪と黒眼の青年。

父方の従兄弟、
魔導騎士として
カフカス王帝領本国に住まう
生粋の貴族筋、
フーリオ・ナァル・サジベルだ。

「フーリオこそ、王帝領には
まだ戻らなくてもいいの?
皇子達はゲートを出てしまった
なのに。道草なのかしら?」

「べつに僕は、彼等の護衛じゃ
ないからねー。尊敬する、
叔父上の尊顔を拝する時間は
充分にあるものなのだよ。」

「相変わらず、お父さま贔屓ね」

「ほら、お前達。会って早々に、
憎まれ口を叩いて、じゃれない」

飄々としたフーリオの様子に
マーシャは、
父方の血筋にして此の性格は
一体誰に似たのかと、
呆れた視線を返すが、
基本仲の良い従兄妹だ。

「さあ、マーシャもこっちね。」

父ザードが、
そんな2人を笑う隣から、
母ヤオが
マーシャを席に呼ぶ。

「で、マーシャ。慌てた様子
だったが、何かあったか。」

マーシャと同じ漆黒の髪と瞳を
持つ父、
最優国魔導師として
宮廷伯の位を持つザードが、
妻の隣に座った娘に微笑む。

「あ、お父さま。それが、、」

一瞬、マーシャがフーリオを見て
話を続けても良いかと、
父ザードに合図をする。

「構わない。フーリオは、こう
見えて弁えるべき所は、
わかっているからね。なあ?」

ザードは楽しそうに、
漆黒の瞳の片目を瞑るって
マーシャを促す。
マーシャは意を決して、
ギルドの長ラジの言葉を告げた。

今、
オーベイ地区の子供達の魔力が、
減少している事をはじめ、
副長レサが見聞した、
辺境地の子供達にも
同様の事案が、起きている事。

なによりギルドの長ラジ自身が、
元英雄である己の魔力さえ、
微々たる減少を感じている事等を。

「「「・・・・・」」」

マーシャの言葉に、
全員が暫く沈黙するのを見て、
魔力減少は、
今知られた話ではない事を
マーシャは理解した。

(少なくも最優良国魔導師
である父は、知っていた?)

これは国レベルの事案だと。

「お母さまは、かつてマイケル
さまと、水龍を見たというのは
本当?授業で、16年前の
『藩島離陸の夜明け』では、
城下に水龍の群れが浮遊したっ
て習ったけど、それ以外に水龍
について書いていなかったわ。」

マーシャが母親ゆずりの巻髪を
揺らして、
別方向から母ヤオに問うと、
ヤオはニコやかに、
それでいて遠い目をして応える。

「別に隠していたわけじゃ、
ないの。あの頃の事を思い出す
と、どうしてもマイケル様に、
会いたくなってしまうのね。」

元宰相補佐官
マイーケ・ルゥ・ヤングァ。

母ヤオが『マイケル様』と呼ぶ
相手は、
母にとっては親同然の存在だと、
マーシャも知っている。
が、意外な所から横槍が入った。

「マイケル様と水龍を見た?
そんな話は初耳だな?ヤオ、
本当に君は、私に内緒が多すぎ
るんじゃないか?マイケル様
だって、私より慕ってるよね」

最愛と言って憚らない父親が、
相変わらず狭量な言葉で
妻に迫るのだ。

「お父さま!話が逸れてしまい
ますから、黙ってくださいね」

マーシャの言葉にフーリオが、
やれやれと揶揄した。

「おー、こわいなぁ、マーシャ。
叔父上も、この2人には弱い
んですねー。でも気になるなあ
本当に叔母上は、水龍を見た
ことがあるんですかね?」

どこか白々しく話の矛先を
変えられている気がしないでもないマーシャだが、仕方ない。

「ラジ長が、お母さまなら、
マイケルさまから、水龍の事
とか魔力の何かを聞いていない
かと相談されました。何でも、
構わないから思い出してと、」

マーシャは母ヤオに懇願する。
次に、ラジから言われた事は
余りに重大だ。

そんなマーシャの様子を汲んで
ヤオは顎に指を当てて、
思案する。

「何かといっても。あの時は、
わたしも小さくて。マイケル様
が独り言を言われる半分も、
分からなかったのね。水龍の時も
どうして、マイケル様が触る
と、水龍が見えるのとかも、」

魔導師として高位役につく
母ヤオ。
しかし秀才肌で、
父ザードと違い
感覚的に魔力を使うタイプだ。

「魔充石についてとか、何か
ないの?お母さまは、マイケル
さまと石を探していたって、
ラジ長が覚えてらっしゃいます」

ヤオはラジから当時の話を、
詳しく聞いた中からヒントを
母親に出す。

ラジ長でさえ思案出来ない事が、
かつての宰相補佐官の
言動にはあったと、
ラジはマーシャにヤオの記憶
洗いだしを頼んで来たのだ。

「お願いします、お母さま。
このままいけば、魔力保管に
のみ魔力を許可する、
魔力統制を緊急発令することに
なると、ラジ長は言ってます。」

マーシャは、とうとう
ラジから託された事案を、
父母に告げた。

「緊急発令で魔力統制だあ?!
魔力を制限するってことだ
ろ?!そんなことしたら!」

フーリオが叫ぶと、
父ザードが、表情を固くして
応えた。

「日常魔法が使えない。魔法の
ない生活は、混乱を呼び、
全てが人力で手動になる、、」


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