彼は過去の彼に殺される
目が覚めると、そこは知らない場所だった。

「君を迎えに来たよ」

その声に振り返ると、あの時の様に微笑んだ彼が立っていた。
私は走って彼に抱きつき、ずっと伝えたかった言葉を叫んだ。

「私は幸せだった!」

彼は笑いながら私を強く抱きしめた。

「知ってたよ。あの時ちゃんと聞こえていたよ」

彼の死の間際に言った私の言葉は、ちゃんと彼に届いていた。

「君に会いたかった。君の話をたくさん聞かせてほしい」

彼はそう言うと、私の手を握った。

私達は歩きながら話をした。
彼に話したいことがたくさんある。
次々と話し出した私に、
「気が早い」と彼は笑った。

「ゆっくりでいいよ。僕たちの時間はたくさんあるんだ。それにこれからの事も話をしよう。まずは君との結婚式だ。ずっと楽しみにしてたんだ」

彼は嬉しそうに笑った。

彼は過去の彼に殺された。
そして私を救った。

彼が殺されなかったら、私達は今ここにいなかった。

今、私の隣に彼がいる。
幸せそうな彼がいる。
繋いだ手を握ると、握り返してくれる。

私達はこれから永い時を一緒に過ごすのだろう。

彼は言った。
「僕は幸せだ」

私は言った。
「私も幸せだ」

私達は幸せだ。


Fin
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