社長はお隣の幼馴染を溺愛している
婚約者の断罪
 アパート前に要人の車が横付けされる日々が続き、仁礼木(にれき)のおばさんが、イライラしているのがわかった。
 おばさんになにか言われているはずなのに、今朝も要人は私を迎えに来る。

志茉(しま)、会社に行くぞ」
「うん」

 私が要人の車に乗ろうとすると、いつものマセラティの横に、黒塗りの車が並んだ。
 その黒塗りの車から、白のジャケット、ピンクのワンピースを着た愛弓(あゆみ)さんが降りてきた。
 予想通りとはいえ、運転手付きの車に乗った愛弓さんは、優雅でお嬢様らしい姿。巻いた髪が肩の上で跳ねていた。
 愛弓さんは私を無視し、要人に挨拶をする。
 
「おはようございまーす。要人さん、一緒に会社に行きましょっ!」
「断る」

 即答する要人に、愛弓さんはスマホを取り出し、にっこり微笑んだ。

「そんなこと言っていいのかしら。扇田(おおぎだ)に連絡して、宮ノ入(みやのいり)会長へ言いつけるわよ? 要人さんが私に冷たいんですって」
「どうぞ?」

 要人は動じず、美しい顔に笑みを浮かべ、相手を圧倒する。
 そして、これ見よがしに、私を抱き寄せた。

「ご存じのとおり、俺には恋人がいるので」

 調子に乗った要人は、髪に顔を埋め、額にキスをして、要人は自分の香りを私に移す。
 朝の支度で、つけたばかりの要人の香水は、爽やかに香り、私の香りを上書きしていく。
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