社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「そう。でも、そんな怖い顔して、どうしたの? 宮ノ入本社でなにかあった?」
「宮ノ入のほうは問題ない。それより、腕時計をあの女に盗られただろ。気づかなかったのか」
「えっ! 嘘!」

 上着と一緒に置いたはずの腕時計がない。
 
「気を付けろよ」
「まさか、盗むなんて思わなかったから……。どうして、要人はわかったの?」
「あー……」

 要人が気まずそうに、目を逸らしたのを見て、私はピンときた。

「要人っ! 前に言ってたGPSって、腕時計に仕込んであったんじゃないでしょうね!」
「便利だろ? そういうわけで、志茉の腕時計をしばらく借りるぞ」
「一生返さなくていいわよ」
「バカ! 持ってろよ! なにかと危ないだろ」
「一番危ないのは要人よっ!」

 腕時計にGPSが仕込んであるなんて、誰も思わない。
 額に手をあて、思わずため息をついた。

「要人。今日、食事会なんでしょ? 別にGPSがなくてもいいんじゃないの?」
「いや、いろいろ小細工するために、仁礼木の両親と扇田を一ヵ所に集めて、居場所を把握して置く必要がある」

 つまり、仁礼木の両親、扇田の人たちを集めたのは、なにかするための時間稼ぎをするということ。
 ――もう嫌な予感しかしないんですけど。

「要人……。小細工って。またろくでもないこと企んでいるんじゃないでしょうね!?」
「どうかな。来週あたりに面白いものが見れる。志茉も招待してやるから、楽しみにしてろよ」

 要人は悪い顔をして笑う。
 微笑んでいても、目は笑っていない。
 やっぱり、一番危険なのは、要人なような気がしてならなかった。
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