社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「扇田さん。社長室までお越しください。あなたにお話したい件があります」

 それを聞いた愛弓さんは嬉しそうに笑った。

「要人さんが? ちょうどよかったわ~。愛弓も要人さんに見せたいものがあったの」

 朝比さんのほうは、笑顔ひとつ浮かべることなく、ロボットのような顔つきのままだった。
 この温度差が不気味で、私はなにが始まるのだろうかと思っていた。
 そういえば、要人は来週、面白いものが見れるなんて、言ってなかっただろうか。
 
 ――ううん。まだ要人が言っていた期限の来週じゃない。だから、愛弓さんの件とは別件のはず。

 私の平穏な暮らしを考えたら、すでに大変な事件なのに、これが要人の普通。
 思わず、額に手をあてた。

「社長室へ」
「はーい」

 愛弓さんは朝比さんの業務的な雰囲気を察していない。

「倉地さんも一緒に来ていただけますか。社長がぜひにと」
「ぜ、ぜひ!?」

 ――正直言って行きたくない。
 
 嬉々として要人が、私を呼びつける時は、なにかあるからに決まってる。
 でも、この場に残る勇気はなく、朝比さんについていくしか選択肢はなかった。
 朝比さんは私たちを社長室まで連れていく。
 案内された社長室では、中央の大きな机に、悠然とした態度で座る要人がいた。
 まるで、王様……魔王のように見えた。

「要人さん、お話ってなんですかぁ? ちょうど愛弓も要人さんに、お話があったんですよ~」
「俺に話? そちらから、どうぞ」

 勝ち誇った笑みを浮かべる愛弓さんの手には、書類サイズの茶封筒がある。
 その中身を要人の前に、広げて見せた。
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