社長はお隣の幼馴染を溺愛している
後悔を消して
 ――なぜ、そう思ったかわからない。

「……要人(かなめ)? どうしたの? 泣いてるの?」

 眠っていた私を後ろから抱き締める手に気づき、ぼんやりした目で振り返る。
 要人は何も言わず、私の髪に顔を埋めたまま動かない。
 だから、どんな表情をしているのか、わからなかった。
 要人の手から伝わる必死さに、要人が泣いている気がしたのだ。

「泣いてない」
「そうよね……」

 要人の吐く息が、首にかかり、こそばゆい。
 私の香りと要人の香りが混ざり合い、心地よい二人の感触を味わう。
 眠りを誘うはずの香りだけど、要人の力のこもる手が、眠らせてはくれなかった。

「志茉」
「なに?」
「抱いていいか?」

 これは、あの日のやり直しだと気づいた。
 私以上に、要人の後悔は強かったのかもしれない――私が悪かったのに。
 でも、この後悔をここで終わらせたい。
 お互いの後悔を消して、前へ進むために、私はうなずいた。
 
「……うん」

 手の緊張が解け、要人と私は顔を見合わせた。
 ウォールライトの淡い光が、私たちの微笑む表情を映し、穏やかな空気が流れる。
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