社長はお隣の幼馴染を溺愛している
お隣の事情
 分厚い肉をこれでもかと食べて、鉄板焼店を出た私は、お腹いっぱいで少し眠くなっていた。
 でも、その眠気は車に乗って、すぐに吹き飛んだ。

『俺は本気でいく』
志茉(しま)が好きそうな車』

 車に乗って落ち着いたら、真剣な顔で話す要人(かなめ)を思い出してしまったからである。
 もちろん、表面上は無関心を装っていた。
 でも、頭の中でいろいろなことを考えてしまっている。
 そんな私に、要人はきっと気づかない。
 要人は黙って、車を走らせている。
 気を利かせたのか、アパートまでの帰り道は、ライトアップされた橋を渡り、夜景が綺麗な道を選ぶ。

「志茉。俺、家を出ようと思う」
「今?」
「いや、もう少し先。まだ準備中」
「そう」  

 要人が家を出たら、私たちの関係は隣の幼馴染と呼べなくなってしまう。
 今みたいに、なにかあれば、すぐそこに要人がいてくれるような安心感がなくなる。
 でも、私はそれに対して不満に思わず、寂しかったけど、ホッとしている部分もあった。
 要人はいつでも仁礼木家から、出られたはずだったのだ。
 隣にいたのは、私のため。
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