社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 ――私への好意は同情。おばさんはそう言ったけれど、もし、私の両親が生きていたら、要人と付き合っていたのかな?

 今日は誰も一緒に来てほしくなかった。
 泣く姿を誰にも見られたくなかったから。
 まだ痛みは癒えず、この傷が癒える日が来るのは、いつなのかと苦しく思う。 
 気持ちが落ち着くと、しゃがんで、また手を合わせた。

「またお盆に来るね」

 そう言って、お墓から離れた。
 霊園から出ると、バス停がある駐車場に、マセラティが見えた。

 ――やっぱり目立つ。

 そのマセラティに寄りかかり、立っていたのは他でもない要人。
 黒のスーツを着て腕を組み、私から不評だったサングラスを外して、こちらを見る。

「終わったか」

 要人は助手席のドアを開ける。
 今年も要人は、私を待っていた。
 毎年、要人はお墓参りが終わるまで、ここで待っていてくれる。
 この日だけは、一緒に行くとは言わない。
 一緒に行けば、見栄っ張りで意固地な私はきっと泣けないだろうとわかっているのだ。

「要人、ありがとう」
「ああ」
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