社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 ――また一人、私の周囲から親しい人がいなくなるのだと思うと、寂しくなった。

「仁礼木家のご子息を孫のように、可愛がって参りましたけどね……。体がいうことをきかなくなってきてしまって……」
「八重子さんがいなくなると、お隣の家事は大丈夫なんですか?」
「若い家政婦がおります。旦那様の世話くらいなんとかするでしょう」

 仁礼木のおばさんは、あまり家にいないのか、八重子さんの口から『奥様』の話は出てこなかった。

「そうですか。八重子さんがいなくなると、寂しくなります」
「あらやだ。志茉さん、寂しいなんて。要人坊ちゃまがいらっしゃいますでしょ。そろそろ、要人坊ちゃまと結婚なさるのかと、思っていたんですよ」

 八重子さんが何気なく言った『結婚』の二文字。
 これが、他の人の耳に入ったら、大変なことになる。
 キョロキョロと周囲を見回してしまった。

「あ、あの、八重子さん! 誤解があるようなので、言っておきますけど、私と要人は付き合ってません」
「照れなくてもいいんですよ。お二人が好き合ってることくらい私にはわかります」
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