社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 卵焼きを何回褒めるのか、要人は作るたびに褒める。
 でも、料理の腕を褒められて悪い気はしない。
 こうやって、いつも要人にうまく丸め込まれてしまうと、わかってるくせに、負けたくなくて挑んでしまう。
 幼馴染だからだろうか。
 素直な気持ちを口にするのが照れくさくて、改まってなにか言うのは難しい。

「あのな、志茉。宮ノ入グループって、同族経営だっただろ? 子会社とはいえ、親族以外で、社長を任されたのは、俺が初めてなんだ」
「えっ! 初めてなの? それはすごいわね」
「そうだろ? 志茉なら、そう言ってくれると思った」

 要人は犬のような素直さで、無邪気に笑っていた。
 可愛らしく見えるかもしれないけれど、外で会う要人はちょっと怖い。
 要人は信用していない人間には、氷のように冷たいから。
 容姿が整い、日本人離れした顔立ちに、ガラス玉のような瞳と白い肌も人形のようで、外見から温度を感じられない。
 だから、要人を冷たい印象があって怖いと言う人もいる。
 でも私は、要人が誰よりも優しいことを知っていた――知っていても、要人に恋はできないけれど。

「志茉、おかわり」
「はいはい」 

 いつものように二杯目のご飯も大盛りにしてあげた。

「それじゃ、お祝いにふりかけをつけてあげる。昇進、おめでとう」

 明日からは社長と社員の間柄。
 私は平社員だし、社長と顔を合わせることは、滅多にないだろう。
 そう思い直し、おめでとうの気持ちを表し、ご飯にふりかけをかけてあげたのだった。
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