社長はお隣の幼馴染を溺愛している
社長就任初日
 沖重(おきしげ)グループ――元々、世間に知られた大きな会社だった。
 けれど、巨大財閥である宮ノ入(みやのいり)グループに買収される前は、業績に伸び悩み、一時は倒産の危機にまで、追い詰められていたそうだ。
 今は子会社となって、業績は良好。
 私が就職先に選んだのは、親会社が大きいし、名前も知れてるし、一生独身であっても、自分一人食べるに困らない会社というのが、一番大事だったから。
 天涯孤独の身であるからこそ、就職する時は、悩みに悩んだ。
 長く勤められ、人間関係も良好なら、なお最高である。
 それが――

倉地(くらち)さん、聞いた? 新しい社長が来たって!」
「聞いたわよ」

 営業からの伝票を眺め、平静を装い返事を返す。
 若くイケメンな社長というだけあって、経理課の女子社員だけでなく、他の課の女子社員も浮足立ち、廊下を行ったり来たりしている。
 集中できないため、ドアを閉めると、前の席に座る女子社員から、恨めしい顔をされてしまった。

「ねえ、倉地さん。見に行かない?」
「私は忙しいから、またの機会にするわ」
< 7 / 171 >

この作品をシェア

pagetop