社長はお隣の幼馴染を溺愛している
移り香
 社食に色々な飲み物が楽しめるカフェスペースができた。
 カフェスペースだけでなく、個人が休憩できるリフレッシュスペースも増え、社員から、とても好評である。
 以前、要人(かなめ)が社食に来た時、指示していたのは、このカフェスペースのためだったらしい。
 まだ社長になって、日が浅いのに、社内のどこにいても、要人の存在を感じてしまう。
 
 ――あんなことがなかったら、素直に喜べたのに。

志茉(しま)、香水変えた?」

 コーヒーが入った紙コップを危うく落としてしまうところだった。
 わかりやすい私の動揺を恵衣(めい)が見逃すはずなかった。

「んー?」
「き、気のせいでしょ。あっ! 恵衣もコーヒー飲む?」
「後から、自分で取りに行くわ」

 そう言って、恵衣は私の隣に座り、日替り定食をテーブルに置く。
 今日の日替わりはチキンカツ。私はいつもと同じお弁当で、半分ほど食べ終えている。

「志茉の香水とは違う爽やかな香りがするんだけど? なんていうか……そう、上等な香り。でも、女性用の香水というよりこれは――」

 恵衣はハッとした顔で、私を見る。
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