社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 そして、なにか思い当たったようで、突然、私の胸倉をつかみ、顔を寄せた。

「バッ、バカ……。会社でなにしてんの」

 小声で言ってくれるのはありがたいけど、私の首が締まってる。

「違うの! 私じゃなくて、要人がっ……」
「そうよね。志茉から、行くとは思えない」

 わかってくれたようで、恵衣は胸倉から手を離してくれた。
 言われるまで気づかなかったけど、確かに私の服から、要人が使っている香水の香りがした。

 ――絶対、要人はわかってやってる。
 
 敗北の連続に、どうしていいかわからず、すがるように恵衣を見た。

「本気になった要人さんに敵うわけないでしょ。あきらめて、要人さんと付き合うのね」
「あきらめるの!?」
「要人さんから逃げようなんて無理。むしろ、今までよく我慢してたわねっていうのが、外野の感想」

 箸を動かし、揚げたてのチキンカツを恵衣は切る。今日のメニューにあった柔らかチキンカツというのは本当だったらしく、皿の上にのった金色のチキンカツがサクッといい音を立てた。
 恵衣はもう落ち着きを取り戻し、何事もなかったかのようにして、キャベツの千切りを口に運ぶ。
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