社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 仕事をサボり、自分だけ新社長を見物するのは、後ろめたいらしく、私まで巻き込もうとする。

「ノリが悪いわねぇ。他の課の子たちは、見に行ってるわよ」

 なぜか、すでに反感を買ってしまったようで、不機嫌な顔をされた。
 要人(かなめ)によって、私の平穏な日々と、将来設計が台無しである。

「私は気にしないから、新社長を見に行ってきたら?」
「そう? じゃあ、行ってくるわ」

 私が上司に告げ口しないとわかったからか、ふくれっ面から一転、大喜びで経理課から出ていった。
 なにが悲しくて、ほとんど毎日現れる幼馴染の顔をわざわざ見に行って、『わぁ! かっこいい! なんて素敵な新社長!』という茶番劇を披露しなくてはならないのか。
 間違いなく、要人に馬鹿にされるだろう。
 それに、今頃、大勢の人に囲まれて、近寄れないはず。
 昔から、要人はいるだけで、華やかで人の目を惹きつけ、周囲に人を集めるタイプだった。
 要人と比べたら、私なんて平々凡々な一般人。
 わかってることなのに、なぜか、ため息が出てしまった。

「倉地、どうした。疲れているのか?」
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