純愛
放課後、つばきは日誌を提出していくからと、一人教室に残った。俺達とつばきを呼びに来てくれたカンナと一緒に、教室を出る。ドアの前で振り返ったら、つばきがジッと俺達を見ていた。
何故かは分からない。分からないけれど、少し気まずさを感じて、俺はすぐに目を逸らした。
教室を出てしまってからも、つばきの視線が背中に張り付いているみたいで居心地が悪い。

「なぁ、最近のつばき、ちょっとおかしくないか?」

俺は小声で言った。

カンナは歩くペースを少し落として、答える。

「おかしいって?どこもおかしなとこなんて無いと思うけど…。」

「俺もハッキリとは言えないんだけどさ、つばきの目…。時々ジッと俺達を見てるんだよ。怒ってるって感じでも無いし、何かを訴えるみたいな。」

「うーん。そうかなぁ。話してても普通だし、私にはそんな目、しないけど。やっぱりまだ透華くんのこと怒ってるんじゃない。」

カンナはクスクスと楽しそうに笑った。
俺がつばきを仲間外れにしようとして、つばきがひどく拗ねていたことをからかっている。

「いや、それだけだったらいいけどさ。なーんか気になるんだよなぁ。」

「だったら直接聞けばいいじゃない。」

カンナは簡単に言ってのけた。でも、カンナが言うほど簡単なことじゃない。特につばきに関しては。それに、夏休みの件で、思春期の女の子は俺が思っているよりもずっと難しいんだって学んだんだ。
カンナにならまだしも、俺には反抗してきそうだし。

「んー。やっぱり変だなって思ったら話してみるよ。それより。」

「うん?」

「カンナの問題の方が先な。」

俺達は校門を出て、バス停までの道を歩く。霧雨が降っていて、俺は傘をさすほどではないと思ったけれど、カンナは持っていた傘を広げて、俺の方にも傾けた。
だからその傘を受け取って、一緒に傘の中に入った。また体の半分ずつが濡れるかもしれないけれど、カンナは全然、気にしていないみたいだった。

「カンナへの嫌がらせを止めるのが先だ。そいつだけは絶対に許さない。」

「うん。ありがとう。」

カンナは小さくお礼を言った。
本当は不安なはずなのに、気丈に振る舞おうとするカンナが、いつもより小さく見えた。
絶対にカンナを守りたい。これ以上悲しい顔はさせたくない。

「大丈夫。絶対、大丈夫だから。」

俺は自分にも言い聞かせるように言った。カンナは何も答えなかったけれど、俺が持っている傘の柄を、そっと握り返してきた。
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