純愛
「変わったって…?」

カンナが訊きながら、俺とつばきを交互に見た。困惑している様な表情だった。
つばきの表情は変わらない。同じ笑顔のまま、俺を少し見上げながら言った。

「今までは、置いてきぼりになんかしなかった。」

「そんなことしてないだろ。」

「ううん。絶対にカンナちゃんと私が前。とーか君が守ってくれるみたいに後ろから来てくれてたんだよ。」

「つばき?どうしたの?」

「とーか君は、もうカンナちゃんさえ居ればいいんだよね?私が居なくても。」

「つばき。また拗ねてんの?別に置いてきぼりになんかしてないし、今だってつばきが来るまで待ってただろ?お前がついてきてなかっただけで…」

「違うよ。」

俺の声を遮ったつばきは、もうどこも笑ってなんかいない。暗い影を落とした様な瞳で俺を見ながら言った。

「とーか君、ずーっと私のこと、疑ってるよね?だからカンナちゃんのこと、私から守ろうとしてるんだよね?本当はさっさとカンナちゃんと二人っきりになりたいくせに。」

「つばき?何を言ってるの?疑ってるって何?それに私と透華くんとのことは、この前ちゃんと話したじゃない。」

カンナは困惑したままだった。つばきはやっぱり見透かしている。俺の感情を。意識していたわけじゃない。確かにつばきの言う通り、今まではカンナやつばきが何かをし始めるまで、どこかに動き出すまで、俺は二人のことを待っていたし、つばき一人を残して行くことなんてしていなかったと思う。
だけど、カンナへの嫌がらせに対して、つばきへの疑惑が強くなればなるほど、カンナとつばきを二人っきりにさせない様に、カンナをいつでも守れる場所に居られる様に、俺は無意識のうちにそういう行動を取っていたんだと思う。

俺がつばきを疑っているということも、つばきはとっくに気づいていたんだ。そしてその疑いを晴らそうともしない。

「とーか君はね、カンナちゃんを困らせているのが私だって疑ってるんだよ。」

俺を見ていた表情とは違う、優しい目でカンナを見ている。カンナは俺を見て「何で…」と言った。

「カンナ、違うんだ。つばき、お前どうせまだ拗ねてるんだろ?俺とカンナに仲間外れにされてるってまだ思ってるんだろ?」

「つばき、そうなの?それは前に話した通り、仲間外れとかじゃなくて…。」

「そんな幼稚な話、してないんだよ。」

カンナの言葉も遮って、つばきは鋭い声で言い放った。カンナの肩がビクリと震えた。

つばきはカンナに触れられる距離まで近づいて、穏やかな口調で言った。

「カンナちゃん、また絆創膏ちょうだいね。」

カンナは何も答えなかった。つばきも俺には何も言わずに、横断歩道を渡って、そのまま歩いて行ってしまった。信号は赤のままだった。役割を果たしていない信号機が、横断歩道をただの橋にしていた。

カンナは呆然とつばきの後ろ姿を見つめている。居心地の悪い俺は、ただそっとカンナの手を握った。カンナは握り返してはこなかった。
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