離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
 そう考えると、このまま彼を放っておいて遅刻をさせることなんてできない。

 わたしは普段あまり入らない、彼の寝室に向かった。

 もしかしたら起きているかもしれないと、トントンとノックをする。中から返事があるかもと耳を澄ませてみたが、物音ひとつしない。もう一度ノックしてみるが、やはり応答がないので中に入ることにした。

「慶次さん?」

 ベッドの上にはチャコールグレーの塊がある。頭まですっぽり布団の中に入って眠っているらしい。壁掛けの時計を見ると躊躇(ちゅうちょ)していたせいか、かなり時間が経っている。

 わたしは覚悟を決めてその塊をゆすった。

「慶次さん、お仕事遅れますよ」

「んっ……」

 あ、よかった。目が覚めたかも。しかし彼はいっこうに布団の中から顔を出さない。仕方がないので、もう一度声をかけながらゆすって起こしてみる。

「慶次さん、起きないと本当にもう――って、えっ」

 なにが起こったのか理解できなかった。布団の中から伸びてきた腕に引っ張られて、そのまま中に引きずり込まれてしまったのだ。

「……っ」

 声をあげようと思ったけれど、慶次さんがギュッとわたしを抱きしめるので胸がドキドキしてそれどころではない。その上彼が上半身裸なことに驚いた。
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