離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
 そう言われると口を閉ざすしかない。もう時間があまり残されていないのだ。仕事を始めるまでに住環境を整えておきたい。

「はい」

 わたしは頷くとすぐに契約作業に入った。

 ここがわたしの、わたしだけの部屋になるのだ。きっとしばらくは寂しいだろうけれど、ここで過ごす時間が離婚の傷を癒やしてくれるだろう。

「入居はすぐにでもできますよ。いつにしますか?」

 わたしが手帳を開いていると隣から慶次さんが二十四日を指さした。

「この日なら休み取れるから。大安だし」

「え、でも引っ越しまで手伝ってもらうわけにはいかないです」

「いいんだ。引っ越し業者も今だと普通の手段では手配できないかもしれないぞ。それに男手があった方がいいだろ」

 わたしってそんなに頼りないかな。でも確かに世間知らずなところはあるし。物件探しだって結局知らないことが多くて、慶次さんがいなければまだ部屋は見つかっていないだろう。本来は自分ひとりでするべきだと思う。だけど今回は時間がない。

「じゃあ、お願いします」

「任せておけ、引っ越しの時はひとりでも手が多いに越したことはない」

 慶次さんの言葉にまた納得して、わたしたちは今後の予定について話し合う。

「俺も心機一転、引っ越しするか」

 慶次さんが言ったこの言葉を、これから始まる生活で頭がいっぱいになっていて聞き流していた。

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