離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「どうだ、ここなら和歌も気に入るだろう」
慶次さんが満足そうに部屋を見回している。
「もちろん気に入りましたけど、家賃はいくらなんですか」
心配になって不動産屋さんに聞こえないように小声で確認する。
「それは心配するな」
「しますよ。あの……恥ずかしい話、そんなにたくさんお給料をもらえるわけではないので」
新卒で最初は仕事を覚えるだけだ。ここの家賃が払えるほどお金をもらえるとは思えない。
「心配しなくていい。知り合いが貸し出しているから破格の値段でかまわないということだ。君」
慶次さんが呼ぶと、不動産屋の男性がわたしのところに来て書類を見せてくれた。
「こんな値段でいいんですか?」
破格も破格。相場よりも随分と安い。
「はい。オーナーさまのご意向ですので」
「でも、わたしみたいなのが借りていいんですか?」
まだ就職もしていないのに、審査などは大丈夫なのかと心配になる。
「それは、小田嶋さまが保証人ということですのでなんら問題ありません」
「え、でもわたしたち――」
離婚するのにという言葉は、慶次さんが指をそれ以上は言わないようにとわたしの唇に当てたので言えなくなる。
「いいから。部屋急ぐだろう?」