シングルマザー・イン・NYC
希和とアレックスはしきりに赤ん坊に話しかけながら、ときおり桜の花を見上げ、仲睦まじく、俺が身を潜めている木の前を通り過ぎていった。
遠目にだったが、赤ん坊は希和に似たつぶらな瞳をしていた。
元気そうに足をパタパタさせていて、男の子だろうか。
希和には家族ができたんだな。
この一年少しの間に生じた希和と自分との差に、少なからずショックを受けた。
仕事では順調に成果を上げてきたが、プライベートでは、俺はニューヨークにいたころと変わっていない。ずっと、心の中に希和がいた。
でも希和は俺がニューヨークを去って間もなく――あるいはそれ以前から、新しい人生へと踏み出していたのだ。
強かというかなんというか、希和らしいな。
笑ってしまった。
でも、こうして元気な姿を見ることができて良かった。
おかげで俺も決断ができそうだ。
帰国したら弁護士の仕事には区切りをつけ、政界に転身しよう。
希和たち家族の楽しそうな笑い声が徐々に遠くなっていくのを聞きながら、俺は決意した。