シングルマザー・イン・NYC
篠田さんは優しい人だ。

西宮葵の件は、彼女が納得していなかったとはいえ、私にプロポーズする前には別れを告げていた。

だが私は篠田さんを許せず、彼に隠して慧を産んで一人で育てた。
別れてからもう六年以上経っている。

あの時から、篠田さんと私の人生は別々の方向に進んだのだ。

やはり、慧のことは伝えずにおくべきなのかもしれない。
伝えてしまったら、篠田さんに迷惑をかけることになるのではないか。

慧には、彼が大人になって自分で色々なことを判断できるようになってから、話そう。

「わかった。ごめんね、急に。朝のニュースで見かけて、つい懐かしくなって――」

私は嘘をついた。
そしてそこから先は、言葉にならなかった。

『そうか。希和、本当に大丈夫?』

『うん』

『それならいいけど、もし何か困ったことがあったら、また連絡を。力になれるかも知れないから。じゃあ、これで。連絡ありがとう。話せてよかった』

『うん』

『――希和?』

彼が私の名を呼ぶのは、これで最後。

「――もう、切るね」

私は通話を終了した。

いつの間にか、涙が頬をつたっていた。
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