シングルマザー・イン・NYC
「うん」

例年、年末年始は母がニューヨークに遊びに来るが、今年のチケットはまだ取っていない。

「じゃあ、その時に入籍しよう。お互いの親にも挨拶をして。帰国したらスケジュールを調整して連絡する。希和と慧の詳しい予定も教えて。チケットは俺が取るから」

「わかった。ありがとう。ねえ、篠田さん」

「ん?」

「私、信じられないような気持ちだよ」

あなたと慧と、家族になれる日が来るなんて。

篠田さんは、あははと楽しそうに笑った。
懐かしいな、この人のこの笑い方。

「俺の方がもっとそうだから。希和のことはずっと忘れられなかった。でもアレックスとうまくいっているなら――勘違いだったけど――諦めようと、仕事に熱中することで紛らわしてた。それが、慧が突然俺を呼び止めて――しかも、知らないうちに希和が産んだ俺の子で――」

篠田さんの声が少しだけ、かすれた。

「あの瞬間に、俺たちの運命が一つになった気がする」

そうだね、ほんとだね。

私は何度も頷いた。

「――そろそろ戻ろうか」

促されて席を立つと、篠田さんは「これくらいなら平気かな」と呟き、左腕で私を抱き寄せた。
その意外な力強さに驚く。

「希和。愛してる。幸せになろうな」

「うん。私も。愛してる」


(了)


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作者より:本編は一度ここで完結にしたのですが、その後が気になるとの感想を多く頂いたため、「エピローグ・その2」に続きを書くことにしました(2021/10/10)。
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