シングルマザー・イン・NYC
結局、私たちは十四時間のフライト中、ほとんど眠れなかった。

最初は努力したのだが……。

そもそも、米国時間のお昼に眠ろうというのが難しいのだし、私たちは二人とも、樹さんに会えるのが楽しみで興奮状態だったから。

「お母さん。起きてるでしょ」

何とか眠ろうと毛布を掛けて目をつぶっていた私に、慧が囁いた。

「……」

「ねえ。せっかくだから映画観ようよ。僕、これ観たかったんだ」

いつの間に覚えたのだろう、器用にスイッチを操作する。

「……そうだね……」

どうせ眠れないなら、楽しく起きていた方がいいか。

私たちは映画を二本観た。

途中、CAさんがお菓子とジュースを差し入れてくれ、慧は大喜び。

「優しいねえ。それにみんな、とってもきれい。丁寧だし」

樹さんが取ってくれた便は日本の航空会社で、CAさんは全員日本人。
彼女たちの上品な物腰は、慧にとって新鮮に映るのだろう。

映画の後はゲームへと続き、米国時間の深夜を回っても、慧は元気だった。

そのテンションは樹さんに会うまで続くかと思われたが、最後の機内食を平らげてしばらくしてから――間もなく着陸という時になって――ついに睡魔が訪れた。
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