シングルマザー・イン・NYC
「有名なお店のもの?」

「ああ。たまに行く料亭のなんだ。夜食にちょうどいいから、買い置きしてて」

「自炊は?」

「全然」

「そう。じゃあ、明日から私が用意するね」

「……」

 樹さんは黙ったまま、驚いた表情で私を見つめている。

「何か変なこと言った?」

「――いや」

 樹さんが笑う。

「何?」

「嬉しかったのと、夫婦になったんだな、と思って。希和、すっぴんだし」

「あっ、やだ」

バスルームにメイク落としが置いてあったので、つい全部きれいに洗い流してしまったのだ。

「待ってて、眉毛だけでも描いてくる!」

慌ててキッチンを出ていこうとした私の腕を、樹さんがつかんだ。

「いいよ、そのままで」

そうしてそのまま、抱き寄せられる。

「久しぶりに、髪をおろした希和を見た」

「そうだね、いつもアップだもんね。私の髪、癖が強めでふわふわしてるから、まとめる方が楽で」

好きなの、と言おうとしたが、樹さんの唇でふさがれた。
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