シングルマザー・イン・NYC
ふむ、と総理は頷いた。

篠田大臣が交通事故で重傷を負った、というニュースはもちろん日本国内で報道され、ちょっとした騒ぎにもなったそうだ。けれども秘書官の小沢さんが完璧なマスコミ対応をし、私と慧の素性はバレなかったのだ。

樹さんの実家は松濤にあった。高級住宅地の代名詞のような場所。

家の前でハイヤーを降りたが、建物はほとんど見えない。

立派な塀がその敷地を取り囲んでおり、さらに内側には木が茂り、その向こうに辛うじて、洋館の屋根の先端部分が見えるだけだ。

「すごい、立派ね……」

「でも古いよ。明治時代の建物だから」

そう答えると樹さんはインターホンのボタンを押し、少し間をおいて、落ち着いた女性の声がした。

「はい」

「樹ですけど。妻と息子を連れてきました」

「――」

プツ、と音がし、インターホンは切れた。

三分ほど待っただろうか、門扉が開き、ラベンダー色のニットワンピースをまとった美しい女性が現れた。

その姿を見た慧が私の手を引っ張った。屈んでやると彼は、

「カミーユさんみたいだね」

と囁いた。
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