シングルマザー・イン・NYC
「キワ・サイトウ。トップスタイリスト」
そして視線を上げ、私を見た。
「有能なんですね。すごいな」
「ありがとうございます」
……と答えるあたり、自分もかなり米国人ぽくなって来たなと思う。
「謙遜するな。自信を持って前に出ろ!」
はアレックスの教えだ。
私たちの会話に聞き耳を立てていたのだろうか、少し離れた席でこちらに背中を向けてカット中のアレックスが、鏡越しに視線を送ってきた。
私は篠田さんを席に案内しつつ、
(この人はいったい何をしている人なのかしら?)
と思った。
最大の特徴は落ち着いた雰囲気。
そつのない笑顔。
服はジーンズにシャツを羽織っただけ。
アイロンをかけていないと見えて、ちょっとしわになっている。
それなりに着こなせているのは、背が高く、姿勢がいいからだ。
でも駐在員や外交官という感じではないので、留学生――といっても大学生には見えないから、大学院生かな。
勉強で忙しい毎日を送っている、と言われれば、そんな感じに見える。
「どんなふうにしましょうか?」
私は席に座った篠田さんに聞いた。
「基本的にはこのままで。2ヶ月切ってなかったから、少し短めに」
「わかりました」
篠田さんの髪質は、少し癖があって柔らかい。
生え癖を見極めてカットすれば、ドライヤーと手櫛だけでいい感じのスタイルを保てる。
……運命の再会と言えなくもないシチュエーションなのに、私は冷静に篠田さんに最適なカットの方向性を見定めていた。
カットは真剣勝負だ。