シングルマザー・イン・NYC

「キワ・サイトウ。トップスタイリスト」

そして視線を上げ、私を見た。

「有能なんですね。すごいな」

「ありがとうございます」

……と答えるあたり、自分もかなり米国人ぽくなって来たなと思う。

「謙遜するな。自信を持って前に出ろ!」

はアレックスの教えだ。

私たちの会話に聞き耳を立てていたのだろうか、少し離れた席でこちらに背中を向けてカット中のアレックスが、鏡越しに視線を送ってきた。


私は篠田さんを席に案内しつつ、

(この人はいったい何をしている人なのかしら?)

と思った。

最大の特徴は落ち着いた雰囲気。
そつのない笑顔。

服はジーンズにシャツを羽織っただけ。
アイロンをかけていないと見えて、ちょっとしわになっている。
それなりに着こなせているのは、背が高く、姿勢がいいからだ。

でも駐在員や外交官という感じではないので、留学生――といっても大学生には見えないから、大学院生かな。

勉強で忙しい毎日を送っている、と言われれば、そんな感じに見える。

「どんなふうにしましょうか?」

私は席に座った篠田さんに聞いた。

「基本的にはこのままで。2ヶ月切ってなかったから、少し短めに」

「わかりました」

篠田さんの髪質は、少し癖があって柔らかい。
生え癖を見極めてカットすれば、ドライヤーと手櫛だけでいい感じのスタイルを保てる。

……運命の再会と言えなくもないシチュエーションなのに、私は冷静に篠田さんに最適なカットの方向性を見定めていた。

カットは真剣勝負だ。
< 5 / 251 >

この作品をシェア

pagetop