シングルマザー・イン・NYC
「子供のころから、私たちは将来結婚することになっていたの。政界の篠田家と財界の西宮家と言えば、理想的な組み合わせ。親が決めたことだけど、お互いにちゃんと好意はあって、普通のお付き合いもしてきたわ」

意味わかるわよね? と、西宮さんは冷たいまなざしで私を見た。

「それが、しばらく連絡をよこさなくなったと思ったら。別れよう、と。クリスマスの頃よ。あなたにプロポーズして上手くいったから、私を切り捨てようと思ったんでしょう。浅はかよね」

「でも、それは無理。篠田家が政界でさらに地位を得るためには、西宮の財力が不可欠だもの。あなたにはそんな力、ないでしょう?」

「だけど篠田さんは弁護士で、政治家では――」

西宮さんは、ふう、とため息をついた。

「今はね。政治家になるのを嫌がってるから、周りが好きにさせているだけ。国際弁護士の肩書は、海外の政治家と渡り合うときに役に立つし。でもいずれ継がなくてはならないの。樹も心の底ではわかってるわ。そして、あなたに政治家の妻は務まらない」

私は呆然と立ち尽くすだけで、もう、何も言えなかった。

政治家の妻とか財力とか、そんなことはどうでもよくて。

篠田さんが、西宮さんと別れていないにもかかわらず私と付き合い始めたという事実に、胸が押しつぶされそうだった。

まさか篠田さんがそんなことをする人だったなんて。
< 51 / 251 >

この作品をシェア

pagetop