シングルマザー・イン・NYC
「希和ー? スマホ鳴ってるよ」

その夜、リビングに置きっぱなしにしていた私のスマホを手に、アレックスがドアをノックした。

差し出された画面を見ると、篠田さんからだ。

「……出たくない」

「あっそ」

そう言うとアレックスは画面をスワイプして、自分が電話に出た。

「ちょっ、アレックス勝手に……!」

「希和は話したくないって。ごめんね、切る」

そして電話を切ってくれた。

「……ありがと」

「いや、希和、ありがとうじゃないだろ? ちゃんと話せよ。店に来たあの女性、きれいだったけど感じ悪かったよ? あんな女の言うこと、鵜呑みにするわけ? 希和らしくない」

さっき夕食を食べながら私は、西宮さんが話したことをアレックスに伝えたのだ。

「嘘を言っているようには思えなかった。西宮さん、私の母が裏切った父のことを語るときと同じ空気をまとっていた」

胸騒ぎがする。直感が、西宮さんの言っていたことは真実に近いと告げている。
だから篠田さんから真実を聞くのが怖くてたまらない。

「希和、落ち着いて。篠田さんが二股かけてたかどうか、まだ確定してない。篠田さんに聞いてみろよ」

アレックスは、ぐいと私にスマホを突き付けたが、私は首を振った。

その時――まどにコツン、と何かが当たる音がした。
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