シングルマザー・イン・NYC

「お母さんは? いつ来るって?」

「クリスマスに。学校が冬休みに入るから、年明けまでいるって」

母は結局、出産には来られなかった。

生まれたての孫に会いたい気持ちは強かったが、立場上休みを取るのが難しく、それなら、と長く滞在できる時期を選んだのだった。

そして「せっかくだから」と、この部屋の近所のホテルを予約した。
そこで気ままに寝泊まりし、ここに通うという計画。

私は年明けから仕事復帰なので、最初の一週間、ナニーさんと一緒に慧の様子を見てもらえるのは安心だ。

「なんか、あっという間だな」

「なにが?」

「妊娠から仕事復帰まで」

「そうだね……。子育てに追われて、瞬く間に日々が過ぎていきそう。でも忙しいのはいいことだよね、余計なことを考えずに済むから」

と言ってから、しまったと思った。
アレックスは察しがいい。

「――それ、余計なことじゃなくて大切なことなんじゃないか? 篠田さんのことだろ? 二人のことだから俺は立ち入らないけど、でも、希和がまだ篠田さんのことを」

「気にしてないよ。余計なことっていうのは、ナニーさん大丈夫かなとか、仕事復帰してちゃんと育児と両立できるかなとか、そういう細々した心配のことだよ!」
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