シングルマザー・イン・NYC

昼前にJFK空港を出ると、4月初旬にしては暖かいなと感じた。

今年は春が早いのか――セントラルパークの桜が咲いているかもしれない。
日本の公園と同じように、桜が咲くのだ。

希和と付き合い始めて間もなく満開になったはずだが、俺たちは見逃した。
お互いを知ることに夢中だったんだろう。

「春になったらセントラルパークでお花見したいな」

婚約中、希和が何気なく口にしたのを覚えている。
だが俺たちは春が来る前に別れた。

あの時は、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
別れたことも、一年経っても忘れられないこともだ。

俺はタクシーの座席で、思わずため息を漏らした。

「悩み事かい?」

運転手がミラー越しに話しかけてくる。

ひどく訛りのある英語で、一瞬何を聞かれたかわからなかったが、ニューヨークではよくあることだ。

この街では世界中から来た人間が、それぞれの英語を話す。
外見からして、中近東の出身だろうか。

「いえ」

「ひどく深刻そうだったよ。恋人と何かあったかい?」

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